俳優を目指すと決めたあなたへ
あなたに、どうしても最初に覚えておいてほしい事があります。
俳優を目指す人にとって、長く続けていくうえでとても大事なことなので最後まで読んでもらえればと思います。
とは言え、重苦しい感じもなんなんでできるだけ軽めにいきます(笑)
生活を一番に考えてください
俳優を目指し始めてすぐにとんとん拍子で「売れる」人も中にはいますが、ほとんどの人にとって、俳優として生計を立てられるようになるまでの道のりは非常に長いものになります。
なので、長距離走を走るための心構えとして頭の片隅に置いておいてもらえればと思いますが、俳優活動を長く続けていくために大事なのは、
「心の平穏」を維持することです。
簡単に言うと、 生活面を大事にするということですね。
好きな世界に飛び込むわけなので最初は「楽しい」が圧倒的に勝っていると思いますが、長く続けていく中で、俳優活動と生活を両立するというのはなかなか難しいと感じると思います。
センスや才能があっても、生活苦から辞めていった人もたくさんいます。
その辺りの現実を、自分の経験も含め、俳優として売れた仲間、そして辞めていった仲間、さまざまな人を見てきた実例を基にお伝えします。
■駆け出しの俳優はスケジュールのコントロールが難しい
僕がなぜ、これから俳優を目指すあなたにこの話をどうしても伝えておきたいかと言うと、なかなかそういったリアルな現実を伝えてくれる場がないからです。
夢や希望だけを語ってこの業界に誘い込む場はたくさんありますが、一度立ち止まって、ここで考えてみるように提案してくれる場というのはなかなかありません。
なのであえて僕は、長い旅に出る前に持ち物を確認してもらうという意味で、最初にこの話をしておこうと思います。
見切り発車したはいいけど最低限生活できるレベルの収入源も確保できず、すぐに家賃を滞納したり光熱費を滞納してしまうような人も中にはいます。
「自分に限って、そんなことはありえないわ・・・」
そんな声が聞こえてきそうですが、俳優活動するうえで自分の生活リズムを自分で管理できない場面も結構多いものです。
たとえば芸能事務所に入るのであれば、基本的にはスケジュールは事務所管理になります。
もちろん、オーディションが入りそうなときや仕事が入りそうなときは事前にスケジュールを確認はしてもらえますが、基本的には事務所のスケジュールが最優先という考えは、どこの事務所も同じです。
そうなった時に、決まっていたアルバイトも無理を言って休まなければいけない時も出てきます。
それが撮影などの仕事であれば、後々、出演料をもらえるので結果的にはマイナスにはならないかもしれませんが、これがオーディションであれば出演料はありませんので、時間を空けたはいいけど落ちてしまえば金銭的な面で言えばただのマイナスでしかありません。
でも、俳優として売れたいのであれば、オーディションは可能な限りどんどん受けていった方がいいのも事実です。
もうこの時点で「なかなかスケジュール管理って難しそうだな・・・」という気持ちになったかもしれませんね。
・特に舞台に出演するなら気をつけよう
さらにこれが舞台になると、もっと拘束される時間が長くなります。
なぜなら、平均して1~2ヶ月の稽古期間があるからです。
稽古日程の間隔や時間帯というのはその団体によって様々ですが、基本的に稽古スケジュールを決めたり管理するのは主催する団体です。
出演するキャストというのはそのスケジュールをもらって、それに沿って自分の生活を合わせていかなければいけません。
ベテランや大御所になると自分の個人的なスケジュールを優先する場合もありますが、駆け出しの新人俳優がなかなか自分のスケジュールを優先するのは難しいです。
そもそも1日2日稽古を休んだだけでも取り残されてしまうので、自分にとっても不都合しかありません。
そういった事情からでも、俳優を目指す人のスケジュール管理が難しいことはなんとなくわかってもらえたかと思います。
なので、常にギリギリの生活をするのではなくて何が起こっても少しゆとりをもって対処できるだけの収入や貯蓄を考えておかなければ、何かあれば生活はすぐに苦しくなります。
他にも、自分のスキルアップ、レベルアップのためには何かしらのレッスンや習い事をする必要が出てくると思いますが、それにもお金がかかりますからね。
・売れる兆しが見え始めた頃にピンチがやってくる
そして俳優として評価が高まり忙しくなればなるほど、 生活との両立が難しくなる時期というのが来ます。
ギャラ単価(出演料)と労働時間の比率が逆転する前の状態ですね。
これも映像の場合は、後からそれなりの出演料がきちんと入るので結果的にはマイナスにはならないかもしれませんが、忙しくなればなるほどアルバイトなど今の生活費を稼ぐための時間は減ります。
そして、やはり特に考えておかなければいけないのは、舞台の場合です。
舞台の場合でも、自分の評価が高まれば出演依頼やオファーがくるようになりますが、映像に比べて舞台の出演料というのはかなり低いです。
出演料が低いと言うか、拘束される時間に対しての割合が低いです。
先ほども言いましたが、舞台の稽古期間が1~2ヶ月間あったとして、 その稽古に割いた時間も全て含めて出演料で割ると、相当割合が低いものです。
ひっきりなしに舞台出演の依頼が入ればさらに忙しくなり、アルバイトなどをする時間も減りますよね。
こうした期間にうまい具合に生活との両立が出来なくなって、せっかく評価が高まり活動の幅も広がったのに、生活苦によって活動を休止したり辞めざるをえなくなる人がいたりします。
なので、そうしたことも考えて、長く続けていくために「生活をキープする」また、「心のゆとりを維持する」これを大事に考えておいた方がいいです。
■生活苦はあなたの輝きを奪う
金銭面で苦しくなってくると、そうした「生活苦」というのは表面にも現れてきます。
生活が苦しくなると、もちろん食生活も悪くなるので顔つきや肌ツヤもわるくなり、 美意識も弱まって服装や身だしなみも乱れてきます。そして発している空気や波動が悲壮感でいっぱいになってきます。
もちろん、そうした貧乏な状況や生活の苦しさなどから芽生える「ハングリー精神」というのもあるかもしれません。
ただ、「ハングリー精神」と「悲壮感」というのは全く違うものです。
俳優というのはある意味、夢や希望を与える仕事です。
「心の貧しさ」や「みすぼらしさ」は全力で遠ざけるようにしましょう。
自分が思っている以上に、周りの人にはそういった空気や波動というのは見透かされるものです。
■きっかけとなった悲しい実話
「生活との両立」
「金銭面での心のゆとり」
まず、上記2つのことを本気で考えてから走り出しましょうと言っているのには理由があります。
それは、僕自身が深く考えていなかったからです。
今こんな偉そうなことを書いていますが、僕自身は将来などあまり深く考えることもなく芝居にのめり込んでいたので、電気やガスを止められることもしょっちゅうだし家賃の滞納なども日常茶飯事でした。
後先考えないで舞台の出演をガンガン決めてしまって、後でのたうち回ってました。
そんな僕が、真剣に現実を考えるようになったきっかけがあります。
僕には、俳優活動を始めた当初から共に歩んできた同い年の俳優仲間がいました。
ちょうど30歳になる頃。
その仲間のお父さんが、急逝されました。
それを知らされた息子である俳優仲間が、その受け止め難い現実とともに大きなショックを受けていたのが、貯蓄もない彼には葬儀代を出してあげることすらできないという現実でした。
明日食べるお金もどうしようかというギリギリの生活の中で舞台活動していた僕らには、当然の話です。
よく夜通し演劇論を交わしあう中で、同い年ということもあり「早く俳優として売れて親孝行がしたい」など、そんな夢の話もお互いによくしました。
だから、その仲間の気持ちが痛いぐらいわかって言葉もかけられませんでした。
誰よりも感謝していて一番恩返ししたかった人を、恩返しすることもできないまま失ってしまい、そして最後に自分の力で送り出してあげることもできない。
その仲間が感じている自分自身に対する無力さや、情けなさ、ショックを考えると、とても心が痛んだのを今でも覚えています。
結局、親類などが費用は用意してくれてお父さんを送り出してあげることはできたのですが、彼はそれをきっかけに自分の人生を見つめ直し、俳優活動を辞める決断をし実家に帰って行きました。
その出来事は、僕にも大きな影響を与えました。
自分が置かれている現実や将来というものに対して真剣に考えるようになりました。
でもこんな話はほんの一部です。
単純に生活苦で辞めていった俳優は山のようにいます。
ある俳優仲間の場合は一生懸命舞台活動している傍らで、少しずつ生じてくる生活の赤字を借金で賄っていたようですが、借金の額が膨らみどうにもならなくなって突然皆の前から消えました。
そんな人もいます。
ずっと売れないまま、アルバイト生活で身を立てて俳優活動を続けていた先輩俳優も、50歳を過ぎて体を壊し、働けない体になってしまいました。
今を生きていく生活費を稼ぐためのアルバイトさえもできなくなり、もちろん俳優活動もできなくなりました。
そんな人もいます。
極端な例かもしれませんが、とにかく「生活」「お金」というのはそれぐらい大事なものです。
あなたが確実に売れる俳優だと決まっていたとしても、どのタイミングで売れるかは誰にもわかりません。
1年後かもしれないし、5年後10年後、もしくは20年後かもしれません。
果てしない長距離走になるかもしれないことも踏まえ、これから走りだすあなたに、
「自分の生活」
「心の平穏」(少しばかりの心のゆとり)
これを大事に考えながら、歩んでいってほしいと思います。
あなたの未来に明るい希望の光がさしますように。